歌ごころ 先生のお話し また続き

白々し、という言葉について申しますならば、しらじらし、と読む場合と、しろじろし、と発音する場合とで、その気持ちや意味がよほど違ってまいります。


落潮になりたるらしも青海のなかに白々瀬の見えそめつ


例えばこの歌の「白々」というところを、しろじろ、と読むか、しらじら、と読むか、いずれがふさわしいかを考えてみてください。しらじら、と読む読み方が何故かしら似つかわしからぬもののあることが感じられるでしょう。落潮になったらしい海の底から白々と浅瀬が見えてくるのです。その、作者の心が低く海の中に惹かれている気持は、どうしても、しろじろ、と読まなければならぬものを感じさせます。


しらじらとしぶきをあげて上つ瀬ゆ水は力のかぎり圧し来る


岩の上に踏まえてのぞく崖の底めぐり流るる水しろじろし

                     森園 天涙


この二首の場合、二つの音の使い方の違いがはっきり分かるはずです。



娯楽小説作家:藤本英明 (大空まえる・明日香英麿・藤本楠庭)

絵本・探偵小説・時代小説・随筆・歌集・アダルト小説などを執筆しております。

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