木下利玄 湯浅先生の鑑賞 その二

物かげに怖ち”し目高のにげさまにささ濁りする春の水哉

                     木下利玄


この歌では、その初句が「物かげに」というところから始まっています。その物かげというのは、人の影なのか、さしているパラソルなのか、あるいはあたりを飛んだ小鳥などの影なのかさだかではありません。しかし、いずれにせよ、水のおもてにさしてきた動くかげであろうと、私は想像するのです。そして、それらの影がさしたいきさつは省いて、いきなり「物かげに」と歌いだして、メダカのにげさまに小さくにごる春の水へのしたしさを、たっぷりといいあらわしてあるところなどは、作歌の手心を学ぶ上に、たいそう参考になると思います。この歌の掲載されている歌集には、その次にすぐ続いて、


見透しの田舎料理屋昼しづか桃咲く庭に番傘を干す


という歌があります。この歌も私の大好きな歌です。

つづく。

娯楽小説作家:藤本英明 (大空まえる・明日香英麿・藤本楠庭)

絵本・探偵小説・時代小説・随筆・歌集・アダルト小説などを執筆しております。

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