愛の表現 その二(御木徳近教祖)

Gが妻の尻に敷かれているありさまは、見るものにまゆをひそめさせるほどだった。気が弱く妻の前でもオドオドしている。軽薄にさえ見える。いかにも表現力にとぼしい。

夫を尻に敷いている妻は、いつも不満があるからだ。夫にリードされ、愛されてこそよろこびがあり、不満も解消されるもの。奥さんもそれを望んでいるはず。あなたがいま奮起しなければあなたたち夫婦は一生、夫婦のよろこびを知らずに終わることになる。そういう意味のことを私は話したのだった。

彼は、その日帰宅するなり、

「これからは、僕のすることにかれこれ言うなら、お前と別れる」

と妻に宣言した

顔面蒼白、額には油汗がにじんだというが、それだけの勇気(?)が彼には必要だったのだ。

表現はおそまつだったが、結婚して以来、はじめて何かを踏み切った夫の気迫が、日ごろ彼をうとんじていた妻にもぴんと通じたらしい。以来Gの妻はすっかり変わった。よくなった。

妻を愛するとはご機嫌をとったりベタベタしたりすることではない。相手を生かすことだ。その人の個性を十二分に表現させることだ。そのためには、しかることもある。冷たく扱うこともある。

感情にとらわれて、どなったりたたいたりするのでは価値はないが、愛する心情からやむにやまれずそうなったものはいちがいに否定できない。

                  御木徳近著 「愛」より

娯楽小説作家:藤本英明 (大空まえる・明日香英麿・藤本楠庭)

絵本・探偵小説・時代小説・随筆・歌集・アダルト小説などを執筆しております。

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